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地金歴史

銀について <1>

2021.2.18

 今回は銀についてです。
 調べるほど興味深く、長くなったので2回に分けることにしました。

 銀は今、とてもなじみのある金属です。食器や装飾品はもちろん、銀の抗菌性は浄水器の殺菌装置や制汗スプレーなどに活かされています。ケーキを飾るアラザンも銀、写真や太陽電池にも使われます。そういえばクロムハーツが流行ったころから聞くようになった、シルバーアクセという言葉もずいぶん浸透しました。

特徴

 銀は、なかなか面白い特徴をいくつも持った金属です。

 例えば、熱伝導性と電気伝導性が金属の中で1番です。熱しやすく冷めやすい。可視光線の反射率も1番なので、鏡に使われています。
 銀はすぐ黒く変色するというのはよく知られていますが、この変色は酸化ではなく硫黄と結合する硫化です。銀製品の表面にできてしまう硫化膜の原因は、温泉の硫化水素(入浴剤もです)、パーマ液や自動車の排ガス、もっと身近なところではごく一般的なあのアメ色の輪ゴムです。輪ゴムは天然ゴムに硫黄を混ぜて弾力性を耐久性を出しているので、この硫黄が反応してしまいます。

 また先日、あるご注文をいただいた関係で、一応確認までと思い調べてみて驚いたのですが、なんと銀は鉄より重いんです。銀の比重は10.50、鉄の比重は7. 87。そこで意識して鉄クギを持ってみると、なるほど銀より軽い。これは意外でした。

歴史

 銀の歴史も、大変古いものです。
 人類が初めて銀を手にしたのは紀元前4000年とも言われています。
 発見された最古の銀製の装飾品は、紀元前3000年頃にシュメール人の都市ウルで発見された装飾品だそうです。実物の写真を見たいと思いgoogle他で検索してみたのですが、それっぽいものは見つけられませんでした。このメソポタミア文化圏で紀元前2500年頃には銀の精錬法も確立したそうです。

 古代エジプト、新王国時代(紀元前16-11世紀)には、銀は物の価値をはかる基準とされていました。天然の金は金の粒として採取できるのに対し、銀は精錬しなくてはならないという点で金よりも高価で、その価値は金の倍以上でした。

 また太陽と金、月と銀の結びつきはこの時代にはもう生まれており、エジプトの月女神ハトールは銀の女神とされました。紀元前14-13世紀、セティ1世やラムセス2世らの王墓の壁には、太陽神ラーについてこのような記述があります。“その骨は銀、肉は金、髪はまことのラピスラズリであります“。古代エジプトの象形文字ヒエログリフでは、“骨“は“本体“という意味も持ち、“銀“と“体“を示す言葉の音はとても似ていると言われます。この記述は、これよりもさらに古い時代の記述を踏襲したものと考えられているそうで、当時のエジプト人の神の姿に対する心象を伝えています。

 最古の鋳造貨幣、エレクトロン貨にも銀が含まれていました。紀元前670年頃に現在の西トルコにあったリディア王国の貨幣で、金73%と銀28%の合金でした。この当時でも、まだ銀の価値は金1に対して2.5。純銀の価値は高く、金に銀メッキをすることさえあったようです。リディア王国ではこの後銀貨も作られましたが、銀貨で有名なものはやはり3世紀頃の古代ギリシャのドラクマ銀貨です。 

スターリングシルバー

 現在、ジュエリーの素材として一般的なシルバー925も、貨幣が元で決まった品位です。これは92.5%の銀と7.5%の銅の合金で、柔らかすぎる純銀を硬く加工しやすくしたもので、別名スターリングシルバーと言います。その語源について、実ははっきり知らないままでしたので、今回調べてみました。

 まず、92.5%の銀を本位として初めて採用したのは、11世紀後半ノルマン朝初代のイングランド国王ウイリアム1世です。この銀92.5%をスターリングと呼んだのは、12世紀後半、プランタジネット朝初代のイングランド国王・ヘンリー2世時代に銀貨鋳造を担っていたスターリング家に由来しています。 スターリング家は東ドイツの貨幣造幣家で、イギリスへ渡って銀貨の鋳造方法を指導しました。その際に銀の含有率を92.5%と定めており、この品位がのちにイギリスの法定品位に設定されました。

 余談ですが、先日あるブランド店で「こちらはスターリングシルバーという特別な銀で、アレルギーも起こしにくいですし、変色しにくいんですよ」との説明を受けました。

 これは、誤解を招く言い方です。スターリングシルバーは、SV925の中でも銀と銅だけでできている、という意味では特別です。というのは、”SV925”という表記は、ただ92.5%の銀が含まれていることを保証しているだけなので、残りの7.5%がニッケルなどのアレルギーを招きやすい金属のことがあるからです。銀そのものは極めてアレルゲンになりにくい金属ですが、銅はアレルゲンになります。ですのでニッケルを含んだSV925と比べれば、スターリングシルバーはアレルギーを起こしにくいと言えるかもしれません。ですが、ただ”アレルギーを起こしにくい”とだけ言うのは説明不足だと思います。”変色しにくい”については、正直ちょっと意味がわかりません。

 ジュエリー全体に対する信頼に関わりますので、正しい知識を正しく伝えていただきたいと思います。

 今回は銀の特徴と歴史についてでした。
 次回はその2回目です。